The previous night of the world revolution~P.D.~
――――――…アイズ総長の暗殺計画実行の前日。

下準備の為に、エペルとミミニアがセルテリシアの傍を離れた、そのタイミングを見計らって。

僕はここぞとばかりに、セルテリシアの執務室を訪ねた。

相変わらず護衛に止められそうになったが、今回もセルテリシアが自ら出てきて、僕を部屋に迎え入れてくれた。

勿論、エペルとミミニアには秘密で。

女性と密会…何だかわくわくしますよね。

相手がサナリ派の代表じゃなかったら、もっと楽しかったんだろうになぁ。

アイズ総長の暗殺計画実行を前に、セルテリシアは酷く暗い顔をしていた。

「…浮かない顔ですね」

でも、あなた酷い顔ですね、と言うのは失礼かと思われたので。

ちょっとオブラートに包んでみました。

浮かない顔、どころじゃないですからね。

「…そうですね」

セルテリシアも自覚があるらしく、こくりと頷いた。

「…やはり、明日のことですか?」

分かっていながら、僕はそう聞いた。

「いや、ただ風邪気味なだけです」とか言われたら、わざわざ危険を犯して僕がここに来た意味がないが。

「…はい、そうです」

良かった。別に風邪気味な訳ではないらしい。

拍子抜けにも程がありますから。

「…本当は、セルテリシアさんはアイズ総長の暗殺なんて望んでないんじゃないかと思ってました」

「…」

「やっぱりそうだったんですね。望んでいないのに、実行の許可を…」

「…他に、私に選択肢はありませんから」

すっかり諦めているらしい。

あなた、さては押しに弱いタイプですね。

どうしてもアイズ総長の暗殺が気に食わないなら、「何を言われようと絶対許可しません」と言い張るくらいの気概を見せて欲しいものだ。

まぁ、そんな毅然とした態度を望めるなら、そもそもこんなに拗れていませんよね。

「あなたは…嫌ではないのですか?自分達の仲間だった方を…その、手に掛けるのは…」

何を聞いてるんだろう、この人。

「本当は嫌で嫌で堪りませんよ」と言ったら、暗殺計画を中止にするとでも?

「僕達を『ブルーローズ・ユニオン』に誘ったのは、あなたでしょう?」

その時点で、何もかも覚悟が出来ていて当然でしょう。

寝返るというのはそういうことだ。

他でもないあなたが、僕達に寝返ることを求めたんですよ。

その分の覚悟、責任は背負ってもらわなければ困る。

例えあなたが望んだことでなかったのだとしても、実行の許可を出したのはあなたなのだから。

「それは…そう、ですけど…」

「ここに来たときから、僕は覚悟しています」

「…。…強いのですね、あなた方は」

それは嫌味ですか?

「…私には…とてもそんな覚悟は出来ません。アイズレンシアさんを殺して、私が代わりに次期首領になる…?私はアイズレンシアを殺してまで、彼が背負っているものを肩代わり出来るのでしょうか」

無理ですね。

それは無理だと思います。

少なくとも、暗殺実行を翌日に控えて、こうしてウジウジ悩んでいる時点で。

腹を括れ。覚悟を決めろ。

それが上に立つ者の義務というものだろう。
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