The previous night of the world revolution~P.D.~
もしアイズが本気で俺達を返り討ちにしようとするなら、アリューシャを俺達の目の前に配置するはずがない。

アリューシャの特技は、言うまでもなく長距離狙撃である。

それなのに今、アリューシャは俺達の前にいる。

勿論一対一でもアリューシャは怖いけど、狙撃手が自ら姿を現すなど愚策にも程がある。

アイズがそのようなこと、気づかないはずがない。

それでも敢えて、こうしてアリューシャを派遣したのは。

アイズには、本気で俺達を返り討ちにするつもりはないのだ。

もしそうしたいなら、こんな回りくどいやり方は必要ない。

俺達が階上に上がって、廊下を走ってるところを狙い撃ちにすれば良い。

アリューシャにとっては、それこそ朝飯前の楽な仕事だろう。

全くのノーリスクで、おまけに一瞬でカタをつけられる。

それなのにそれをしないってことは、本気で戦うつもりはないってことだ。

それだけじゃない。
 
今アリューシャは、確かに俺に向かって発砲した。

でも、俺には当たらなかった。

咄嗟に躱したからだろう、って?

アリューシャの狙撃の腕を甘く見るなよ。

アリューシャが獲物を仕留めるのに、一発以上の弾丸は必要ない。
 
相手が避けようが躱そうが、それさえ予測して撃ち抜いてくるのがアリューシャだ。

ましてや、俺はアリューシャの前にいるのだ。

この距離で、まかり間違ってもアリューシャが外すはずがない。

アリューシャが引き金を引いたのに、何処からも流血せずに、こうして普通に突っ立っている。

これだけで、アリューシャが本気じゃないと分かる。

今のは、わざと俺が避けられるように「誘導」して撃ってくれたのだ。

戦闘を長引かせるように。

わざとらしく投降を呼びかけてきたのも、同じ理由だろう。

アリューシャが本気だったら、裏切った相手に投降を呼びかけはしない。

さっきアリューシャが言ってただろう?

裏切ったことに対して文句は言わない。ただ、裏切るならこちらも容赦はしない。

アリューシャはそういう奴だ。俺が本気で裏切っているのだとしたら、手加減はしないだろう。

投降を呼びかけたりもしない。

それなのに、わざわざ投降しないかと話しかけてくるのは…。

恐らく、それがアイズの指示なのだろう。

何から何まで気を遣わせて、申し訳ない限りだ。

じゃあ、俺も時間稼ぎに協力するとしよう。

「…お前こそ、降参した方が身の為じゃないのか?」

「あ?」

「長距離戦ならお前は負け知らずだが、こうして姿を見せたのは愚策だったな」

「…はっ。言ってろよ」

アリューシャは再び、ライフルを構えた。

仲間だって分かっているから、かろうじて落ち着いていられるが。

これがお互い本気で闘ってるのだとしたら、今頃冷や汗ダラダラだろうな。

アリューシャにライフル向けられるなんて、平時であればこれほど恐ろしいこともなかなかない。

「…いちいち相手にするな。ターゲットの暗殺を先に…」

エペルが声を潜めて、俺に向かって進言してきた。

アリューシャを放って、先を急げと?

そうはさせるものか。
 
「馬鹿言うな。アリューシャにライフル向けられてるのに、逃げられる訳ないだろ。ここで迎え撃つ」

「…ちっ…」

悪いが、茶番に付き合ってもらうぞ。

俺達がこうして時間稼ぎに努めれば努めるほど、ルーチェスもやりやすくなるというものだ。
< 608 / 634 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop