The previous night of the world revolution~P.D.~
「お、お…お姫様…抱っこ?」

冗談で言ってるんじゃないですよ。僕は至って真面目です。

ルレイア師匠の弟子ですからね。

「はい。少しでも早く本部に辿り着きたいので」

さっきから緊張のあまりか、足元が覚束ないようですから。

だったらいっそ、僕が運びますよ。

その方が早い。

「馬鹿な真似を。貴様ごとき下賤の身が、セルテリシア様に触れるなど許されるはずがないだろう!」

セルテリシアの護衛が、怒気を滲ませて僕に唾を飛ばしてきた。

下賤の身って。僕のこと「貧民街上がり」だと思ってます?

恐らく、このルティス帝国で最も高貴な生まれだと自負してるんですけどね。

まぁ、準幹部以下は僕の出自を知らされていないから、誤解するのも無理ないですね。

そんなことより、こんな下らないやり取りで時間を無駄にしたくはない。

僕は護衛の言葉を無視して、セルテリシアの後ろに回り。

彼女の背中と膝の裏を抱き上げて、お姫様抱っこした。

「きゃっ…!」

ちょっと可愛い悲鳴をあげるのやめてください。

「貴様、セルテリシア様を離せ!」

今離したら床に真っ逆様だけど、それで良いんですか?

「問答してる余裕はありません。奇襲作戦の要は、迅速な敵地制圧。いくらルレイア師匠達がアイズ総長の首を獲ろうと、制圧が遅れれば、『青薔薇連合会』に対策する隙を与えてしまいますよ」

僕はセルテリシアを抱えて、小走りしながらそう言った。

僕のド正論を聞いて、護衛達も悔しそうに唇を噛み締めていた。

「だからと言って、セルテリシア様にそのような…」

「それに、躓いて転ばれても困りますから。本部に侵入するまでの我慢ですから、辛抱してください」

セルテリシアの護衛と、セルテリシア本人に向けてそう言った。

「…済みません。お願いします」

セルテリシアは、護衛の奴らより聞き分けが良かった。

このまま、僕にお姫様抱っこされたまま運ばれることを承知したらしい。

宜しい。非常に結構です。

「お、重いですよね?済みません…」

え?そんなこと気にしてるんですか?

「大丈夫ですよ。全然重くありませんから」

セカイさんより軽いですよ。本人に言ったら烈火の如く怒り狂いそうですけど。

「気にしないで、捕まっててください」

「は、はい…。でも、その…」

「はい?」

まだ何か、言いたいことでも?

「同じ運ぶなら…お姫様抱っこじゃなくても…おんぶでも良かったのでは…?」

「…」

…あっ。

…成程、その手もあったか…。全然思いつきませんでしたね。

おんぶ、おんぶか…。

…うーん…。

…好みじゃないので却下。

やっぱりお姫様抱っこじゃないと。ねぇ?ロマンチックさに欠けますよ。 

「…いちいち降ろして、また背負うの面倒なので、もうこのまま走って良いですか?」

「あっ、はい…。どうぞ」

「ありがとうございます」

エペルかミミニアのどちらかが見たら、発狂して降ろさせてたでしょうね。

見られてないので、セーフ。
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