The previous night of the world revolution~P.D.~
「…え?もう良いの?」

「良いですよ。お疲れ様でした」

俺も疲れましたよ。

『ルティス帝国を考える会』のときも思ったけど、正体を隠したスパイなんてやるもんじゃないな。

神経がすり減る。

俺は両腕を広げて、シュノさんに言った。

「お久し振りですね、シュノさん。ルレイアが帰ってきましたよ」

「…!」

シュノさんは拳銃を取り落とし、ぷるぷると震えていた。

そして。

「る、る…ルレイアぁぁっ!」

あー、はい。そうすると思ってました。

シュノさんは堰を切ったように泣き出し、俺の両腕の中に飛び込んできた。

いらっしゃい。

「うぅ、会いたかった…会いたかったよぅ…」

「俺も会いたかったですよ。心配かけましたね」

「ふぇぇぇ」

あぁ、慰めてるつもりが、もっと泣き出しちゃった。

俺って罪な男。

よしよし、とシュノさんの頭を撫でる。

すると。

「…!?どういうことだ…?何をしている…?」

一人状況に取り残されたミミニアが、俺とシュノさんの感動的な再会を見て、呆然としていた。

あぁ。そういえばあなた、いましたね。

失礼。開放感のあまり忘れてました。

シュノさんのハグを受け止める前に、この女を拘束しておくべきだったな。

逃げられたら面倒だ。

「シュノさん、ちょっと手伝ってもらえませんか?」

泣きじゃくるシュノさんの髪を撫でながら、俺は努めて優しくそう言った。

「て、手伝う…?何を…?」

「このセルテリシアの側近を拘束します。逃げられると面倒なので」

「うん…分かった、良いよ」

「ありがとうございます」

シュノさんが手伝ってくれるなら、一瞬ですね。

じゃ、さっさとやってしまおう。

くるりと振り返り、俺はミミニアに向かって拳銃を向けた。

そのときになってようやく、ミミニアは状況を理解したらしい。

そう。俺が敵に回ったという事実が。

あんなに俺のことを、信用出来ないとか何とか言ってた癖に。

いざとなると、拳銃を向けられるまで俺の敵意に気づかないとは。

意外と信用してくれてたってことなんですかね?

今更信用されても、全く意味がないですけど。

「っ、くそっ…!」

毒づいたミミニアは、応戦することなく踵を返した。

ほう、逃げますか。

それは正しい選択ですよ。

ここで無謀にも俺と戦おうとしない辺り、ミミニアは賢い。

しかし、逃げようとしたからって、逃げ切れるかどうかは別の話だ。

判断するのが遅かったな。

俺がシュノさんに声をかけた時点で、お前はすぐさま逃亡するべきだった。

「逃さないわ」

既にそこには、ミミニアの逃走経路を塞ぐようにシュノさんが立ちはだかっていた。

「ちっ…!」

「運がなかったですね」

俺とシュノさんに囲まれて、逃げ切れる者がいるなら紹介して欲しい。

ミミニア・シュロット。

あなたの敗因は、ほんの少しでも俺を信じてしまったことです。

ハナから俺が裏切るつもりで『ブルーローズ・ユニオン』に潜入していると判断していれば、もっと対策の取りようもあったものを。
< 616 / 634 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop