The previous night of the world revolution~P.D.~
「アイ公は?アイ公は会ったことあんの?」

「私もないね」

でしょうね。

「ルリ公は?」

「残念だが、俺もないな」

ルリシヤもないか。

俺でさえ会ったことがないのに、中級貴族だったルリシヤは、ますます会う機会がなかっただろうな。

ましてや、俺とルリシヤは…帝国騎士団側の人間だったから。

余計、自警団の面々と顔を合わせる機会など、あるはずがない。

「なーんだ。誰も会ったことないのかよ。つまんね、」

「僕は会ったことありますよ、自警団」

「おぉ!?ルー公すげぇ!」

この場で唯一、帝国自警団のメンバーと顔を合わせた経験がある者。

それは、かつてベルガモット王家の皇太子だった、今は俺の弟子のルーチェスのみ。

成程。ルーチェスなら、会う機会があるでしょうね。

「どんな感じだった?良い奴?」

「良い奴かは分かりませんけど…。会ったことがあるとは言っても、それほど親密に話した訳じゃないので」

「ほーん」

…ふむ。ルーチェスでさえそうか。

まぁ、ここ最近の帝国自警団の情勢を見れば、無理もないだろう。

誰が、今頃になって再び帝国自警団の名前を聞くことになると思うだろう。

このまま自然消滅するのかと思っていたくらいだ。

しかも、自然消滅したとしても、多分一生気づかなかったと思う。

「ルーチェスは、どうしてその自警団の人と会ったの?」

と、尋ねるシュノさん。

「大した用事があった訳じゃありませんよ。あのときは僕も皇太子の端くれだったもので…ちょっとしたベルガモット王家の式典のときに、儀礼として帝国自警団の団長を招待したんです」

ほう。

端くれと謙遜せずとも、あなたはれっきてした皇太子でしたよ。

今は俺の弟子ですけど。

「えっ。団長と会ったの?どんな人だった?どんな話をしたの?」

「まぁ落ち着いてください」

「あ、ごめん…」

ついつい畳み掛けてしまったと、シュノさんは我に返っていた。

焦るのは分かりますが、ここは冷静に。

普段から冷静さの塊である俺が言うのだから、抜群の説得力。

「話をしたと言っても、儀礼的な挨拶だけです。予め台本が決まっていて」

「挨拶だけ?個人的な話とかは、一切なかったの?」

「ありませんね。皇太子としての接見ですから、むしろ個人的な話はしちゃいけなかったんです」

「…そうなんだ…。…難しいんだね、皇太子って…」

「僕もそう思いますよ」

元上流貴族だった俺も、全く同じ意見ですよ。

全く。式典で挨拶する相手くらい、自由に決めさせてくれれば良いのに。

この頭の硬さよ。

これだから、王族だの貴族だのは嫌いなのだ。

滅びれば良いのに。

「それに、僕が会ったのは団長と言うか…。団長代理でした」

と、ルーチェスが言った。

…団長代理。そう言われて理解した。

俺も、それほど詳しく帝国自警団の内情を知っていた訳じゃないが。

やはり、あの噂は本当だったんだな。
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