ひとりぼっちのさくらんぼ
(お前が本なんか読むのかよ、って思ったよね、今)
少しだけこの場から逃げ出したい気持ちになった。
だけど。
男子は、
「貸し出し手続きをするので、少し待っててください」
と、抑揚のない声で言ったけれど、手早く手続きを済ませてくれた。
図書室から出て、本を通学鞄にしまう。
その瞬間。
贈り物をもらったみたいな。
わくわくして。
弾んだ心が、体におさまらないみたいな。
どうしようもなく、浮かれた気持ちになった。
階段を早足でかけおりて。
西校舎から出る。
中庭を通って、あたしは昇降口のある本校舎に向かった。
下駄箱で上靴から通学用のローファーに履き替えて。
小走りで校門を抜ける。
電車に乗って、家まで帰って来た。
お母さんはまだ仕事から帰って来ていないみたいで。
玄関のドアを開けて入ると、薄暗い部屋が静かにあたしを迎えてくれた。