ひとりぼっちのさくらんぼ

(お前が本なんか読むのかよ、って思ったよね、今)



少しだけこの場から逃げ出したい気持ちになった。



だけど。

男子は、
「貸し出し手続きをするので、少し待っててください」
と、抑揚のない声で言ったけれど、手早く手続きを済ませてくれた。



図書室から出て、本を通学鞄にしまう。

その瞬間。



贈り物をもらったみたいな。

わくわくして。

弾んだ心が、体におさまらないみたいな。

どうしようもなく、浮かれた気持ちになった。



階段を早足でかけおりて。

西校舎から出る。

中庭を通って、あたしは昇降口のある本校舎に向かった。



下駄箱で上靴から通学用のローファーに履き替えて。

小走りで校門を抜ける。






電車に乗って、家まで帰って来た。

お母さんはまだ仕事から帰って来ていないみたいで。

玄関のドアを開けて入ると、薄暗い部屋が静かにあたしを迎えてくれた。

< 11 / 224 >

この作品をシェア

pagetop