ひとりぼっちのさくらんぼ
あたしは洗面所に直行して、まず手洗いうがいを済ませた。
階段をあがって、二階にあるあたしの部屋に行く。
通学鞄をそっと置いて。
制服を脱いで、淡い色がお気に入りのジーンズと、グレイ色のパーカーに着替えた。
鞄の中から本を取り出す。
表紙はいろんな花が浮かんでいる水の中に両手を入れて、水をすくっている写真。
すくった水の中には切ないほどに細い、三日月が映っている。
「キレイ……」
しばらく表紙を眺めた。
それからあたしはページをめくる。
『孤独な月をあなたにあげる』は、やわらかい文体で、あたしはとても読みやすさを感じた。
それになんと言っても主人公の女の子があたしと同じ年で、共感しやすい。
複雑な家庭環境で育ち、自分の気持ちを人に伝えることが苦手な主人公。
唯一心を開けるのは幼馴染みの男の子だけど。
その男の子には恋人がいて……。