ひとりぼっちのさくらんぼ
あたしはテレビ画面に視線を戻した。
お姉さんは、
「えー、でも、でもさー……」
と、ひとりで話しつつ、スマートフォンに何か文字を打っては消してを繰り返しているみたいだった。
しばらくして。
お姉さんが、
「よし、送る!」
と宣言したから、
「何て書いたの?」
と聞いてみたら、お姉さんは笑顔でこう言った。
「J Kちゃんには、秘密ー」
「何それ」と言いつつ、あたしもそれで良い気がしていた。
市原さんとお姉さんの。
ふたりだけの世界。
あたしは、お姉さん自身だけど。
でも、あたしが介入しちゃいけない世界なんだ。
(メッセージに何て書いたか知るのは、十七年後だな)
それから。
あたしはテレビ放送の映画に集中した。
ミステリー映画で。
最初は犯人の視点で、話が展開していく。
主人公の、若い警察官を演じる俳優さんが登場した時、少し驚いた。
とても端正な顔立ちだったから。
お姉さんはあたしの隣で。
ずっとスマートフォンの画面を見ていた。
時々、何かのメッセージを打っている気配がしていて。
市原さんとのやり取りが続いていることに、あたしも嬉しくなる。