ひとりぼっちのさくらんぼ
(すごい……)
魅力的な主人公。
理想の相手役。
だけど。
すんなりうまくはいかない、ふたりにとっての壁。
共感度抜群の内容。
センスある文章。
ページをめくる度に。
惹きつけられる。
切なくて、悲しくて、でも面白くて。
「絵玲奈ぁ?帰ってるの?」
一階からお母さんの声。
お母さんこそ、いつの間に帰ってたんだろう?
本を閉じることが勿体なく感じたけれど、あたしは、
「帰ってるー!」
と返事をして、一階におりた。
「部屋で何してたの?」
お母さんはキッチンで何かを切っている。
トントントン、と包丁のリズミカルな音。
「別に?本読んでた」
「そうなの?だから静かだったんだ?」
お母さんは切っていたものを鍋の中に入れた。
「今日、何?ごはん」
「ん?ビーフシチュー。ちょっとクリームシチューと悩んだけどね、牛肉が安かったから」
「ふぅん、手伝おうか?」
「あ、いいの?じゃあ、玉ねぎ炒めてくれる?」