ひとりぼっちのさくらんぼ

「えっ、うーん、そこ、思い出す?」

「いやー、忘れないと思うよ」



お姉さんは顔が赤くなっている。



(また人を黒歴史にして!)



あたしはこっそりプンプンしながら、でも、幸せそうに笑うお姉さんを見て、「まぁいいか」と思った。



「よく遊んだよね?あの頃」



そう言った市原さんの笑顔が優しくて、愛おしくて、あたしは思わずときめいてしまった。

この人の持つ雰囲気や、空気感。

毛布に包まれた感じの安心感に似ている。



(これはあたしが協力しなくても、成就するんじゃ……?)



だって。

確かに感じる。

市原さんからの、好意を。



「……ごめんなさい」



ん?

気づくと、お姉さんがうつむいている。



「SNSで見つけちゃったの。……市原くん、恋人がいるよね?」



「え?」



お姉さんの言葉に、あたしと市原さんの驚く声が揃った。

まぁ、あたしは『えすえぬえす』が何かはわかってはいないけれど。

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