ひとりぼっちのさくらんぼ
「だから、この人とは恋人でもなんでもないよ」
市原さんはそう言って、
「多分、同姓同名の誰かと間違えてるんじゃないかな?」
と、スマートフォンを片付けた。
恋人ではない、という言葉に嘘はないように見える。
お姉さんは少し安心した表情になって、
「……そっか、良かった」
と、呟いた。
「『良かった』?」
市原さんがニコニコしている。
お姉さんは「しまった」と、うつむいた。
「告白して!お姉さん!」
と、あたしはお姉さんにささやく。
タイミングは、今だ。
この機会を逃す手はない!
今こそ、抜け出すんだ!
ひとりぼっちの、孤独の世界から!!
「頑張って!」
と、あたしはお姉さんの背中にそっと触れた。
お姉さんは顔をあげて、
「……好き、だから……」
と、言った。
すごく小さな声だったけれど、お姉さんは続ける。
「市原くんのことが好きだから、恋人がいるのかもって思って、ショックだった」