ひとりぼっちのさくらんぼ

行ってもいないのに、デートしたこと。

触れてもいないのに、手を繋いだこと。

言われてもいないのに、甘い言葉。



そんなふうに妄想を文章にして、ひとりで満足していたあたしと、この市原さんのSNSに書き込みをしている人は、同じことをしているのかもって。



この人も妄想を書いているのかもしれない。

そして、本人に送りつけているんだ。




(モテる男の人は、大変だな)



あたしは十七年後、市原さんと両想いになるまでは、ずっと孤独なのに。








それからお姉さんと市原さんは、しばらくおしゃべりをしていた。

穏やかに笑う市原さんの声。

聞いていると安心出来る。

だけどあたしは、お姉さんが幸せそうに話していることが、何より嬉しかった。


「誰も、私の人生には関わってくれない」と泣いたお姉さんが、もうこの先、そんなふうに思わない日々が続いたならいいのに。






リビングのふたりが、大人の恋人同士の時間に入ったことがわかって、あたしは仕事部屋でひとり、少しだけ焦ったけれど。

お姉さんと市原さんが仕事部屋の隣にある寝室に入ってから、あたしは素早くリビングに帰った。

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