ひとりぼっちのさくらんぼ
「んー、思い出せなくて」
あたしのそばに、お姉さんがやって来る。
「ねぇ、お姉さん。市原さんとは知り合ってるんだよね?あたし」
「……そう思うんだけどなぁ?」
「何それ、曖昧?」
お姉さんは、
「事故でさ、私の記憶って曖昧になったところがあるみたいでさ。ほぼ覚えているけど、やっぱりぼんやりした部分ってあるよ」
と、静かな声で言う。
「……そんなものなの?」
「そうね、残念ながら」
そのぼんやりした部分に。
市原さんと出会った時間が隠れているんだ。
「ねぇ」
と、あたしはお姉さんを見た。
「ん?」
「お姉さんさ、高校生のうちに市原さんと遊んでさ、仲良しみたいだったじゃん?よく遊んだよねーって言ってたし」
「うん。よく遊んだよ」
「でもさ、カフェで会った時には再会した感じだったでしょ?市原さんとは、一度離れるってことだよね?」