ひとりぼっちのさくらんぼ

(はぐれないようにしなくちゃ)



あたしはお姉さんと並んで、市原さんの後ろを歩く。



「すごい人……」



お姉さんにだけ愚痴る。

お姉さんはあたしをチラッと見て、うなずく。



別に何かの催しがどこかであるわけでもないのに、晴れた週末はみんな、どこかに行きたいらしい。



その時。

市原さんが、
「次の電車の時間を見てくるね」
と、お姉さんから離れて行く。



(あ、離れたら危ないよ)



そう思ったけれど、市原さんは行ってしまった。



「大丈夫かな」
と、お姉さんも心配そうな声を出す。




そして。

背後から。

白くて、長い指が見えた。



お姉さんの肩をトントンッと軽く叩く。



「はい?」



お姉さんは呼ばれた、と思って、振り返ってしまった。




あたしも振り返る。

そこには、野球帽を被った女性が立っている。



「……?あの、何か?」



お姉さんは女性に尋ねる。

女性はスラッとした背の高い人で、細身のデニムパンツと、黒いタートルネックのニットを着ている。

その上から黒いジャンパーに、黒い野球帽を被っているから、あまり顔が見えない。

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