ひとりぼっちのさくらんぼ
「やりたいこと?」
「そ。せっかく未来に来たんだから、行きたいところに連れて行ってあげる」
両手を腰に当てて胸を張ったお姉さんに、あたしは少し考えてこう答えた。
「街を歩きたい。目的地みたいな場所はないけれど、あたし、街を散歩したい」
お姉さんは「いいじゃん」と言って、
「じゃあ、支度する!ちょっと時間ちょうだい」
なんて少し楽しそうにしている。
あたしは昨日ソファーのそばに置いておいたローファーを持って、玄関まで行った。
「それは触れられるんだね」
先に靴を履き終わったお姉さんが、あごに手を当てて言う。
「私もあなたに触れることは出来るけれど、なんであなたは触れられないものがあるんだろうね?」
「わかんない」
外に出て。
玄関ドアを閉めようとしたけれど。
やっぱり、ドアノブは掴めなかった。
マンションを出て。
ここが街の西のほうだということを知った。