ひとりぼっちのさくらんぼ
「あれ?上条さん?」
あたしの背後から声がした。
柔らかい、聴き心地の良い、ほんの少し低い声。
あたしは思わず振り向く。
そこには、スーツを着て眼鏡をかけているお兄さんが立っていた。
黒い髪を少し流してセットしている。
ふんわりとした優しそうな感じの、いわゆるイケメン。
(王子様みたい……)
だけど。
あたしは、こんな人、知らない。
「市原くん?」
お姉さんの戸惑っている声が聞こえて。
あたしはお姉さんを見た。
(あれ?なんか……?)
お姉さんの表情が、幼い女の子みたいに見える。
(この顔、まるで……)
あたしが考えている間に、市原と呼ばれたお兄さんは、
「……うん、久しぶりだね。元気だった?」
と、優しくお姉さんに微笑んだ。
お姉さんの頬が勢いよく赤く染まっていく。
「お姉さん、顔が真っ赤だよ」
と、小声で伝えるけれど、お姉さんはあたしを無視して、
「あ、うん。元気だよ。市原くんも元気?」
なんて、市原さんしか見ていない。