ひとりぼっちのさくらんぼ

あたしは仕方なく、黙ってふたりを見守ることに決めた。



「元気だよ。上条さん、ひとり?もし良かったら少し話さない?」



お姉さんが素早くあたしを見る。

あたしは無言でうなずいて、席から立ち上がり、お姉さんの席の後ろのソファーに座り直した。



「あ、あの、どうぞ……」



お姉さんがそう言うと、
「お邪魔します」
と、市原さんがお姉さんに向かい合って座った。



「上条さん、ここ、よく来るの?」



市原さんは手に持っていたコーヒーをひと口飲む。

トレイにはベーグルも乗っている。



「近所だから。……あ、市原くん、食べてね。私はもうごはんは食べてきたから」

「ありがとう。じゃ、いただきます」



市原さんは両手を合わせて、ベーグルを食べ始めた。

ベーグルを持つ手に、自然と視線を移す。

白い手。

細いけれど、関節の所がしっかりしている。



(きれいな手)


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