ひとりぼっちのさくらんぼ
お姉さんはスマートフォンを持った反対の手で、あたしを小さく指差して。
「あなた、もう市原くんと出会ってない?」
と、聞いてくる。
「え?」
「確か、高二の頃には知っていたと思う。高三は絶対に知ってたよ、市原くんのこと」
「え?知らないよ、あんなイケメン。あんなにかっこいい人のこと、忘れないよ」
「え!?知らないってことはないと思うんだけど……?」
お姉さんの反応に。
あたしは、恐怖を覚えた。
「もしかして、さ。あたし、タイムスリップが原因で、記憶が飛んでる?」
お姉さんはいつものように、「それはない」とは、言ってくれなかった。
その代わりに、
「あなた、タイムスリップの前に、何があったのかを覚えているでしょう?」
と、不安な表情をくれた。
(怖い、こわい、こわい)
あたしは両腕をさする。
「それが……、覚えてないんだよね……」