深紅の復讐~イジメの悪夢~


……百合香の病室。


あたしがお見舞いに持ってきた花が、無惨に床に散っている。

リハビリをしていた百合香が、肩で大きく息をする。



「っ……。バカ!バカ!!バカー!!!愛香のバカ!!」



百合香がその大きな瞳から、宝石のような涙がポロポロと溢れ出す。



「なんで!?なんでそんな復讐をするの!?確かに彩綾たちは悪いことをした!!でも、なんで殺すの!!どうして!?」



あたしは、百合香のその言葉を無表情で聞いていた。

かわいそうに。麗華姫たちに洗脳されてしまったんだね。

あいつらが悪いやつだ、っていう感覚が鈍っているんだ。



「もうやめてよ愛香!そんな酷い復讐をして、何になるの??」



その問いは、何回も聞いた。

その度に答える。



「あたしが、そして百合香が救われるため、だよ。」



百合香が目を見開いた。


「違う…!」


「違うよ愛香。復讐は、負の連鎖を生むだけだよ!絶対に切れない鎖で、愛香を縛っていくだけだよ。もう絶対に逃げられないところに、愛香を、縛りつけるんだよ!?」



あたしの心に、冷たい水が広がっていくようだった。



「何回も言っているよね、愛香。本当の復讐は、愛香が幸せになること、だよ?」



聞き飽きた。

あたしは、くるりと百合香に背を向けた。

病室を出る時、後ろで、百合香がポツリと、つぶやいた。



「……目を覚ましてよ、愛香…。」



震えた、声だった。
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