なんちゃって伯爵令嬢は、女嫌い辺境伯に雇われる
31.王都へ
夜会の日が近付いてきて、私達は遂に王都に行く事になった。
「王都ってどんな所なんですか? 私、実は王都に行くのは初めてなんです」
「えっ、サラ様も初めてなのですか!? 私もです!」
「アガタさんもですか!?」
馬車の中で、アガタさんと二人でキャッキャと盛り上がる。
私とセス様に付いて来てくださる事になったのは、ベンさんとアガタさんだ。仕事ではあるけれども、お二人にとっては王都への婚前旅行になるので、きっと良い思い出になるに違いない。リアンさんから聞いた話だと、観光もできるように、いつもより長めに王都に滞在するようセス様と打ち合わせをされていたそうなので、多分お二人の為に配慮されたのだろうな、と私は密かに思っている。
やっぱりキンバリー辺境伯邸の皆さんは本当に素敵な方々だな、と私まで嬉しくなってしまった。お二人に便乗させてもらう形になるけれども、私も今から王都の観光をとても楽しみにしている。
……夜会の事を思うと、胃が痛くなってくるけど。
「私はずっとフォスター伯爵領で生まれ育ってきたので、王都なんて行った事が無くて……」
「あら、それを仰るのなら、私なんかキンバリー辺境伯領から出る事自体が初めてです」
「じゃあ、王都に着いたらお二人共きっと驚かれますよ。街並みもお店も人の多さも、キンバリー辺境伯領とは全く違いますから」
「そうなんですね!」
セス様に付いて王都に何度か行った事があると言うベンさんに、王都の様子を聞いたり、お勧めのお店を教えてもらったりして、馬車の旅路を楽しく過ごした。
そして漸く着いた王都に、私達は目を丸くした。
「凄い……!」
王都は想像していたよりもずっと凄い所だった。まず建物が高い。そして所狭しと建物が密集した街並みが、ずっと遠くまで続いている。人ってこんなにいるんだ、と思う程、人通りが途切れる事が無い。今まで見た事が無い光景の何もかもに呆気に取られて、私とアガタさんはずっと馬車の窓に張り付いて、周囲をキョロキョロと見回していた。
「道が土じゃなくて、ずっと舗装されているんですね。揺れなくて快適です」
「何だか可愛いお店が沢山ありますね……!」
「わあ、サラ様、あそこ見てください! あれってケーキ屋さんですよね!?」
「えっ、あんなケーキ見た事ないです! 凄く綺麗! 美味しそう! しかも種類がやたらと多くありませんか!?」
「あっ、あの服滅茶苦茶可愛くないですか!? キンバリー辺境伯領じゃ見た事ないデザインですよ! あれが最新の流行りなんですかね!?」
「アガタさん、あの看板のお菓子何か分かりますか? 良く分からないけど美味しそうじゃありません!?」
私とアガタさんは、完全に田舎者丸出しではしゃいでいた。
やがて馬車は王都にあるセス様のお屋敷に到着した。
「皆様、長旅お疲れ様でした」
お屋敷で出迎えてくださった方々を見て、私は思わず息を呑んだ。
「リ、リアンさんにハンナさん!? どうしてここにいらっしゃるんですか?」
リアンさんとハンナさんはキンバリー辺境伯領のお屋敷に残られた筈だ。出掛ける時、私達を見送ってくださっていたのに、どうして私達より早くここに着いているのだろう。
お二人は顔を見合わせると、可笑しそうに口を開いた。
「申し遅れました。私、このお屋敷の管理を任されております、リアンの弟のイアンと申します。こちらは妻のアンナです」
「初めまして。ハンナの妹のアンナと申します。驚かせてしまったようで、申し訳ありません」
「あ、いいえ、初めまして……」
言われてみれば、お二人共そっくりだけれども、良く見るとリアンさんよりイアンさんの方が少しばかり身長が低かったり、ハンナさんよりアンナさんの方が若干細身だったりするような気がする。ちゃんと見比べてみないと断言はできないけれども。
「サラ様、叔父と叔母の事は、ご存知なかったのですか?」
「はい。誰からも聞いていなかったもので……」
ベンさんに訊かれて、私は頷く。
「そうか。すっかりお前も誰かから聞いて知っているものだと思っていた。驚かせて悪かったな」
「いいえ、セス様のせいではありません。因みにアガタさんは驚かれなかったのですか?」
「私はベンさんから聞いていましたので……」
「もしかしたら、兄達はサラ様を驚かせる為に、わざと黙っていたのかも知れませんね」
茶目っ気たっぷりに言うイアンさんに、私は思わず吹き出してしまった。
真面目なリアンさんの事だから、多分それは無いと思うし、きっと皆さんが旦那様のように、私が既に誰かから聞いて知っていると思い込んでいたのだろうと思う。冗談がお上手なイアンさんは、リアンさんに良く似ているけれども、性格は違うのだなと実感して何だか可笑しかった。
その後は、アンナさんに部屋に案内していただいた。王都のお屋敷は初めての場所だけれども、リアンさんとハンナさんご夫婦にそっくりな、イアンさんとアンナさんご夫婦にすぐに親近感を覚えたお蔭か、緊張する事は無く、居心地の良い場所だと感じた。
「サラ様、今日はゆっくりお休みになって、旅の疲れをしっかりと取ってくださいね」
「ありがとうございます、アンナさん」
自分では自覚が無かったのだけれども、やはり長旅で疲れていたのだろうか。早めに寝たのにもかかわらず、その日は夢も見ずに、朝までぐっすりと眠ってしまった。
「王都ってどんな所なんですか? 私、実は王都に行くのは初めてなんです」
「えっ、サラ様も初めてなのですか!? 私もです!」
「アガタさんもですか!?」
馬車の中で、アガタさんと二人でキャッキャと盛り上がる。
私とセス様に付いて来てくださる事になったのは、ベンさんとアガタさんだ。仕事ではあるけれども、お二人にとっては王都への婚前旅行になるので、きっと良い思い出になるに違いない。リアンさんから聞いた話だと、観光もできるように、いつもより長めに王都に滞在するようセス様と打ち合わせをされていたそうなので、多分お二人の為に配慮されたのだろうな、と私は密かに思っている。
やっぱりキンバリー辺境伯邸の皆さんは本当に素敵な方々だな、と私まで嬉しくなってしまった。お二人に便乗させてもらう形になるけれども、私も今から王都の観光をとても楽しみにしている。
……夜会の事を思うと、胃が痛くなってくるけど。
「私はずっとフォスター伯爵領で生まれ育ってきたので、王都なんて行った事が無くて……」
「あら、それを仰るのなら、私なんかキンバリー辺境伯領から出る事自体が初めてです」
「じゃあ、王都に着いたらお二人共きっと驚かれますよ。街並みもお店も人の多さも、キンバリー辺境伯領とは全く違いますから」
「そうなんですね!」
セス様に付いて王都に何度か行った事があると言うベンさんに、王都の様子を聞いたり、お勧めのお店を教えてもらったりして、馬車の旅路を楽しく過ごした。
そして漸く着いた王都に、私達は目を丸くした。
「凄い……!」
王都は想像していたよりもずっと凄い所だった。まず建物が高い。そして所狭しと建物が密集した街並みが、ずっと遠くまで続いている。人ってこんなにいるんだ、と思う程、人通りが途切れる事が無い。今まで見た事が無い光景の何もかもに呆気に取られて、私とアガタさんはずっと馬車の窓に張り付いて、周囲をキョロキョロと見回していた。
「道が土じゃなくて、ずっと舗装されているんですね。揺れなくて快適です」
「何だか可愛いお店が沢山ありますね……!」
「わあ、サラ様、あそこ見てください! あれってケーキ屋さんですよね!?」
「えっ、あんなケーキ見た事ないです! 凄く綺麗! 美味しそう! しかも種類がやたらと多くありませんか!?」
「あっ、あの服滅茶苦茶可愛くないですか!? キンバリー辺境伯領じゃ見た事ないデザインですよ! あれが最新の流行りなんですかね!?」
「アガタさん、あの看板のお菓子何か分かりますか? 良く分からないけど美味しそうじゃありません!?」
私とアガタさんは、完全に田舎者丸出しではしゃいでいた。
やがて馬車は王都にあるセス様のお屋敷に到着した。
「皆様、長旅お疲れ様でした」
お屋敷で出迎えてくださった方々を見て、私は思わず息を呑んだ。
「リ、リアンさんにハンナさん!? どうしてここにいらっしゃるんですか?」
リアンさんとハンナさんはキンバリー辺境伯領のお屋敷に残られた筈だ。出掛ける時、私達を見送ってくださっていたのに、どうして私達より早くここに着いているのだろう。
お二人は顔を見合わせると、可笑しそうに口を開いた。
「申し遅れました。私、このお屋敷の管理を任されております、リアンの弟のイアンと申します。こちらは妻のアンナです」
「初めまして。ハンナの妹のアンナと申します。驚かせてしまったようで、申し訳ありません」
「あ、いいえ、初めまして……」
言われてみれば、お二人共そっくりだけれども、良く見るとリアンさんよりイアンさんの方が少しばかり身長が低かったり、ハンナさんよりアンナさんの方が若干細身だったりするような気がする。ちゃんと見比べてみないと断言はできないけれども。
「サラ様、叔父と叔母の事は、ご存知なかったのですか?」
「はい。誰からも聞いていなかったもので……」
ベンさんに訊かれて、私は頷く。
「そうか。すっかりお前も誰かから聞いて知っているものだと思っていた。驚かせて悪かったな」
「いいえ、セス様のせいではありません。因みにアガタさんは驚かれなかったのですか?」
「私はベンさんから聞いていましたので……」
「もしかしたら、兄達はサラ様を驚かせる為に、わざと黙っていたのかも知れませんね」
茶目っ気たっぷりに言うイアンさんに、私は思わず吹き出してしまった。
真面目なリアンさんの事だから、多分それは無いと思うし、きっと皆さんが旦那様のように、私が既に誰かから聞いて知っていると思い込んでいたのだろうと思う。冗談がお上手なイアンさんは、リアンさんに良く似ているけれども、性格は違うのだなと実感して何だか可笑しかった。
その後は、アンナさんに部屋に案内していただいた。王都のお屋敷は初めての場所だけれども、リアンさんとハンナさんご夫婦にそっくりな、イアンさんとアンナさんご夫婦にすぐに親近感を覚えたお蔭か、緊張する事は無く、居心地の良い場所だと感じた。
「サラ様、今日はゆっくりお休みになって、旅の疲れをしっかりと取ってくださいね」
「ありがとうございます、アンナさん」
自分では自覚が無かったのだけれども、やはり長旅で疲れていたのだろうか。早めに寝たのにもかかわらず、その日は夢も見ずに、朝までぐっすりと眠ってしまった。