なんちゃって伯爵令嬢は、女嫌い辺境伯に雇われる
40.プロポーズ!?
ケーキ屋さんで焼き菓子をお土産に買った私達は、そのままキンバリー辺境伯領の皆さんのお土産を買いに行った。王都で人気のお菓子や茶葉、海の幸の干物や燻製。皆さんの喜ぶ顔を思い浮かべながらお土産を選んでいる時間は、とても楽しかった。
「……随分沢山買ったな」
「はい。お屋敷の皆さんの分と、国境警備軍の皆さんの分、後王都のお屋敷でお世話になっている方々の分もありますので」
セス様は半ば呆れながらも、大荷物になってしまったお土産を、王都のお屋敷に届けてもらえるよう手配してくださった。
日が暮れて、辺りが暗くなり始めている中、セス様が案内してくださったのは、とてもお洒落なレストランだった。絨毯やシャンデリア等、一目見るだけでも高級だと分かる造りに唖然としながら、個室に案内される。
こんな場所に連れて来られたら、以前の私なら極度に緊張していただろうけれども、多少は落ち着いていられるのは、ここ数日王宮にお邪魔していて、もっと豪華な内装を目にしてしまっているからだろうか。慣れって怖い。
新鮮なロブスターや貝をふんだんに使った料理に舌鼓を打ち、デザートまでも綺麗に平らげる。お腹がいっぱいになり、紅茶を飲みながら至福の時間の余韻に浸っていると、セス様が真剣な表情でおもむろに切り出された。
「サラ」
テーブル越しに高級そうな小箱を差し出される。何だろう、と思った途端、セス様が小箱を開けた。中にはセス様の目の色と同じ、青く透き通った綺麗な石が付いた、高そうな指輪が入っている。
「俺と、結婚して欲しい」
「!?」
危うく紅茶のカップを取り落とす所だった。急いで静かにソーサーに戻して、再度セス様の言葉を脳内で復唱する。
(セス様と、結婚……!?)
呆然としている間に、セス様に左手を取られ、指輪を薬指に嵌められていた。
「……ああああの、セス様、これは一体!?」
我に返り、慌てふためきながらセス様に尋ねる。
「お前が俺との婚約の意味を未だに分かっていないようだからな。俺の気持ちを骨の髄まで分からせる為に、必要だと思った事をしているまでだ」
「えええええ!?」
驚いた私は、はしたなくも大声を上げてしまった。
(セ、セス様のお気持ちって……!?)
「サラ。お前は俺が婚約を申し込んだ理由を、女避けだとか、お前が一番都合が良かったからだとか、どうせそんな事だと思っているのだろう」
セス様の指摘に、私はギクリと身を強張らせる。
(まるで頭の中を覗かれているみたいな……。私ってばそんなに分かりやすいの!?)
「やはりな。真の意味で婚約していた事を漸く自覚させられたかと思った翌日に、今までと左程変わり映えしない態度を取られたら、嫌でも分かる」
(分かりやすくてすみませんでしたあぁぁぁ!!)
「念を押しておくが、俺がお前を婚約者にしたのは他でもない。一緒に過ごすうちにお前の人となりを好ましく思い、やがて心惹かれるようになり、この先の人生もサラと共に暮らしたいと思ったからこそ、こうして求婚をしているのだ」
(セ、セス様が本当に私を……!?)
セス様にじっと見つめられ、私は真っ赤になってしまった。セス様は静かに立ち上がり、テーブルを回って私の傍らに跪いて、恭しく左手を取り、手の甲に口付けをした。
「これで少しは、俺の気持ちが分かったか?」
「……!?」
全身が心臓になったかのように鼓動が煩く鳴り響いている私は、きっと頭の天辺から足の先まで真っ赤になっている事だろう。そんな私の様子を目にしたセス様は、満足げに唇の端を上げた。
「どうやら、今度こそ伝わったようだな?」
「……は……はひ……」
私は小声で噛みながらの返事が精一杯だった。
「……それで、お前の返事は? ……心が落ち着くまで待てと言うのなら、待ってやっても良いが」
私の手を取って跪いたまま見上げてくるセス様に、私は怖々と尋ねる。
「セ……セス様は、本当に私で良いのでしょうか? 私以上に美しくてご立派な、生粋の貴族令嬢の方々なんて幾らでも……」
「前にも言ったが、俺はお前が良い。サラ以外の女などお断りだ」
その言葉には聞き覚えがあった。以前、セス様が婚約者役を私に依頼してきてくださった時の言葉だ。
……いや、違う。私が勘違いしていただけで、あの時から、セス様はちゃんと私の事を選んでくださっていたのだ。
その事が漸く分かって、嬉しさで胸がいっぱいになる。
私は自分に自信が無い。男女を問わず多くの方々に慕われ、憧れられているセス様と釣り合い、隣に立てるか分からない。
……だけど、こんな私を、セス様が望んでくださるのであれば……。
「……私で良ければ、喜んで……」
「そうか」
蚊の鳴くような声で、思い切ってお答えすると、セス様は安堵したように笑みを浮かべて立ち上がり、今度は私の額に口付けられた。
「!?」
私は思わず額を押さえる。
「今はまだ、これくらいで我慢しておいてやる。本当は唇にしたい所だがな」
「あ……ありがとう、ございます……?」
もし唇にされていたら、私は驚愕のあまり卒倒していたに違いない。セス様は何処まで私の事を分かってくださっているのだろう。有り難いと思いつつも、でも今は寧ろ気絶したかったような気もして、私は何時までも額を両手で押さえたまま、全身を真っ赤にして、内心で羞恥に悶え転げていた。
「……随分沢山買ったな」
「はい。お屋敷の皆さんの分と、国境警備軍の皆さんの分、後王都のお屋敷でお世話になっている方々の分もありますので」
セス様は半ば呆れながらも、大荷物になってしまったお土産を、王都のお屋敷に届けてもらえるよう手配してくださった。
日が暮れて、辺りが暗くなり始めている中、セス様が案内してくださったのは、とてもお洒落なレストランだった。絨毯やシャンデリア等、一目見るだけでも高級だと分かる造りに唖然としながら、個室に案内される。
こんな場所に連れて来られたら、以前の私なら極度に緊張していただろうけれども、多少は落ち着いていられるのは、ここ数日王宮にお邪魔していて、もっと豪華な内装を目にしてしまっているからだろうか。慣れって怖い。
新鮮なロブスターや貝をふんだんに使った料理に舌鼓を打ち、デザートまでも綺麗に平らげる。お腹がいっぱいになり、紅茶を飲みながら至福の時間の余韻に浸っていると、セス様が真剣な表情でおもむろに切り出された。
「サラ」
テーブル越しに高級そうな小箱を差し出される。何だろう、と思った途端、セス様が小箱を開けた。中にはセス様の目の色と同じ、青く透き通った綺麗な石が付いた、高そうな指輪が入っている。
「俺と、結婚して欲しい」
「!?」
危うく紅茶のカップを取り落とす所だった。急いで静かにソーサーに戻して、再度セス様の言葉を脳内で復唱する。
(セス様と、結婚……!?)
呆然としている間に、セス様に左手を取られ、指輪を薬指に嵌められていた。
「……ああああの、セス様、これは一体!?」
我に返り、慌てふためきながらセス様に尋ねる。
「お前が俺との婚約の意味を未だに分かっていないようだからな。俺の気持ちを骨の髄まで分からせる為に、必要だと思った事をしているまでだ」
「えええええ!?」
驚いた私は、はしたなくも大声を上げてしまった。
(セ、セス様のお気持ちって……!?)
「サラ。お前は俺が婚約を申し込んだ理由を、女避けだとか、お前が一番都合が良かったからだとか、どうせそんな事だと思っているのだろう」
セス様の指摘に、私はギクリと身を強張らせる。
(まるで頭の中を覗かれているみたいな……。私ってばそんなに分かりやすいの!?)
「やはりな。真の意味で婚約していた事を漸く自覚させられたかと思った翌日に、今までと左程変わり映えしない態度を取られたら、嫌でも分かる」
(分かりやすくてすみませんでしたあぁぁぁ!!)
「念を押しておくが、俺がお前を婚約者にしたのは他でもない。一緒に過ごすうちにお前の人となりを好ましく思い、やがて心惹かれるようになり、この先の人生もサラと共に暮らしたいと思ったからこそ、こうして求婚をしているのだ」
(セ、セス様が本当に私を……!?)
セス様にじっと見つめられ、私は真っ赤になってしまった。セス様は静かに立ち上がり、テーブルを回って私の傍らに跪いて、恭しく左手を取り、手の甲に口付けをした。
「これで少しは、俺の気持ちが分かったか?」
「……!?」
全身が心臓になったかのように鼓動が煩く鳴り響いている私は、きっと頭の天辺から足の先まで真っ赤になっている事だろう。そんな私の様子を目にしたセス様は、満足げに唇の端を上げた。
「どうやら、今度こそ伝わったようだな?」
「……は……はひ……」
私は小声で噛みながらの返事が精一杯だった。
「……それで、お前の返事は? ……心が落ち着くまで待てと言うのなら、待ってやっても良いが」
私の手を取って跪いたまま見上げてくるセス様に、私は怖々と尋ねる。
「セ……セス様は、本当に私で良いのでしょうか? 私以上に美しくてご立派な、生粋の貴族令嬢の方々なんて幾らでも……」
「前にも言ったが、俺はお前が良い。サラ以外の女などお断りだ」
その言葉には聞き覚えがあった。以前、セス様が婚約者役を私に依頼してきてくださった時の言葉だ。
……いや、違う。私が勘違いしていただけで、あの時から、セス様はちゃんと私の事を選んでくださっていたのだ。
その事が漸く分かって、嬉しさで胸がいっぱいになる。
私は自分に自信が無い。男女を問わず多くの方々に慕われ、憧れられているセス様と釣り合い、隣に立てるか分からない。
……だけど、こんな私を、セス様が望んでくださるのであれば……。
「……私で良ければ、喜んで……」
「そうか」
蚊の鳴くような声で、思い切ってお答えすると、セス様は安堵したように笑みを浮かべて立ち上がり、今度は私の額に口付けられた。
「!?」
私は思わず額を押さえる。
「今はまだ、これくらいで我慢しておいてやる。本当は唇にしたい所だがな」
「あ……ありがとう、ございます……?」
もし唇にされていたら、私は驚愕のあまり卒倒していたに違いない。セス様は何処まで私の事を分かってくださっているのだろう。有り難いと思いつつも、でも今は寧ろ気絶したかったような気もして、私は何時までも額を両手で押さえたまま、全身を真っ赤にして、内心で羞恥に悶え転げていた。