なんちゃって伯爵令嬢は、女嫌い辺境伯に雇われる
41.初めての感情
翌朝、食堂に現れたサラは、酷く眠そうに見えた。
「お、おはようございます、セス様」
「サラ、良く眠れなかったのか?」
「あ、はい……」
俺を見た途端に、半開きだったサラの目がしっかりと見開かれ、おまけに顔が赤くなっている所を見ると、今度こそサラに俺の気持ちが正しく伝わったようだと確信する。眠そうにしていたのも、恐らくその所為だろう。サラの安眠を妨げてしまった罪悪感はあるものの、漸く想いが通じた喜びの方が大きかった。
「朝食後に出発すれば、後はずっと馬車の旅路だ。眠かったら寝ていても構わん」
「は、はい。ありがとうございます」
王都の滞在も終わり、俺達は再びキンバリー辺境伯領に帰る。予定外の出来事もあったが、サラが魔法研究所に行っている間に、王都での仕事は全て終わらせた。フォスター伯爵領にある領主邸の整理については、既にイアンに指示を出し終えているし、後の事はある程度任せてある。サラは借金の事を気にしていたようだが、フォスター伯爵領は土地が豊かで作物の実りも良く、きちんと管理しさえすればそれなりの収益が出る土地なので、時間はかかるが元は取れると踏んでいる。そう説明したら、サラも漸く安心し、肩の荷を下ろしたようだった。
イアンとアンナに見送られて、王都の屋敷を後にする。サラは暫くの間、アガタと王都での思い出話に花を咲かせていたが、やはり眠かったのだろう。次第にうつらうつらと船を漕ぎ出したので、抱き寄せて俺に凭れさせた。無防備なサラの寝顔を見ているのも悪くない。
数時間後に目を覚ましたサラが、俺にすっかり寄り掛かって寝ていた事に気付き、真っ赤になって酷く狼狽えながら謝ってくる姿にも、知らず口角が上がった。
数日をかけて、漸くキンバリー辺境伯邸が見えて来た時は、やはりほっとした。煌びやかな王都とは比較にもならない、全く何も無い田舎ではあるが、俺はやはりこの地が一番落ち着く。隣で表情を明るくして屋敷を見つめているサラからも、帰宅を待ち侘びているのが伝わってくる。こんな辺鄙な田舎に目を輝かせてくれる貴族令嬢など、何処を探してもサラ以外には居ないに違いない。
「お帰りなさいませ。長旅お疲れ様でした」
「只今帰った」
「皆さん、只今帰りました」
久々に帰宅した俺達を、屋敷の者全員が出迎えてくれた所で、俺は手短に報告だけしておく事にした。
「王都で俺はサラに正式に求婚し、サラも承諾してくれた。これから結婚に向けて忙しくなるが、全員そのつもりでいるように」
「畏まりました!」
「おめでとうございます!!」
皆が口々に祝福してくれる中、真っ赤になってしまったサラの頭を撫で、俺はリアンと共に留守の間の様子を聞くべく執務室に移動する。大まかには特に何も無かったようで、溜まっていた仕事のうち、急ぎのものだけを片っ端から片付けていった。一段落した所で、サラと共に夕食を摂る。
「サラ、俺達の結婚についてだが」
俺が話題を振ると、サラは瞬時に耳まで赤くなった。
「お前は何時頃が良い?」
「え……?」
赤くなりながらも、目を瞬かせているサラに、俺は続ける。
「俺の気持ちは、まだ漸く昨日お前に伝わったばかりだ。俺のプロポーズは受け入れてもらえたが、まだお前は心の準備ができていないだろう。今更お前を手放してやるつもりなど更々無いが、お前が心を決めるまでくらいは待てるつもりだ」
今まで俺は、サラに雇い主としてしか見られていない事は自覚している。俺は徐々にサラに惹かれ、想いを自覚するようになったが、サラはいきなり俺に気持ちを告げられて困惑した筈だ。幸いプロポーズには頷いてくれたが、まだ大いに戸惑っている最中である事は容易に察せられた。
だからこそ、俺はサラがちゃんと想いを向けてくれるまで待とうと思ったのだが。
「あ、あの、私は何時でも良いです」
「何……?」
サラの返答は、俺の予想外だった。
「私は、セス様の事をお慕いしておりますから」
(!?)
サラの告白に、俺は目を丸くした。
「私は平民として育ちましたし、貴族令嬢としての教育も基本的な事しかできていませんでしたので、本当にセス様に相応しいのか、胸を張ってセス様の隣に立てるのかと、自信が無くて思い悩んでいましたが……、セス様が、私が良いと、私以外はお断りだと仰ってくださったので。私は自分の事には自信がありませんが、セス様の事は心から信頼しております。そのセス様が、私を選んでくださったのですから、セス様が望んでくださる限りは、全力でお傍に居たいと思います」
顔を赤らめてはにかみながら、はっきりと告げてくれたサラに、俺は目を見開いた。と同時に、今まで生きてきた人生の中で、感じた事の無い感情が、胸の底から湧き上がる。
(……可愛い。愛おしい。大切にしたい)
「……そうか。なら、全力で一生俺の傍に居ろ。何があっても離れるな」
「は、はい……!」
今度は頭から湯気が上がるのではないかと思う程、全身を真っ赤に染めて両手で顔を覆うサラを見つめながら、俺も負けないくらいにみっともない程、顔を緩ませている自覚はあった。
「お、おはようございます、セス様」
「サラ、良く眠れなかったのか?」
「あ、はい……」
俺を見た途端に、半開きだったサラの目がしっかりと見開かれ、おまけに顔が赤くなっている所を見ると、今度こそサラに俺の気持ちが正しく伝わったようだと確信する。眠そうにしていたのも、恐らくその所為だろう。サラの安眠を妨げてしまった罪悪感はあるものの、漸く想いが通じた喜びの方が大きかった。
「朝食後に出発すれば、後はずっと馬車の旅路だ。眠かったら寝ていても構わん」
「は、はい。ありがとうございます」
王都の滞在も終わり、俺達は再びキンバリー辺境伯領に帰る。予定外の出来事もあったが、サラが魔法研究所に行っている間に、王都での仕事は全て終わらせた。フォスター伯爵領にある領主邸の整理については、既にイアンに指示を出し終えているし、後の事はある程度任せてある。サラは借金の事を気にしていたようだが、フォスター伯爵領は土地が豊かで作物の実りも良く、きちんと管理しさえすればそれなりの収益が出る土地なので、時間はかかるが元は取れると踏んでいる。そう説明したら、サラも漸く安心し、肩の荷を下ろしたようだった。
イアンとアンナに見送られて、王都の屋敷を後にする。サラは暫くの間、アガタと王都での思い出話に花を咲かせていたが、やはり眠かったのだろう。次第にうつらうつらと船を漕ぎ出したので、抱き寄せて俺に凭れさせた。無防備なサラの寝顔を見ているのも悪くない。
数時間後に目を覚ましたサラが、俺にすっかり寄り掛かって寝ていた事に気付き、真っ赤になって酷く狼狽えながら謝ってくる姿にも、知らず口角が上がった。
数日をかけて、漸くキンバリー辺境伯邸が見えて来た時は、やはりほっとした。煌びやかな王都とは比較にもならない、全く何も無い田舎ではあるが、俺はやはりこの地が一番落ち着く。隣で表情を明るくして屋敷を見つめているサラからも、帰宅を待ち侘びているのが伝わってくる。こんな辺鄙な田舎に目を輝かせてくれる貴族令嬢など、何処を探してもサラ以外には居ないに違いない。
「お帰りなさいませ。長旅お疲れ様でした」
「只今帰った」
「皆さん、只今帰りました」
久々に帰宅した俺達を、屋敷の者全員が出迎えてくれた所で、俺は手短に報告だけしておく事にした。
「王都で俺はサラに正式に求婚し、サラも承諾してくれた。これから結婚に向けて忙しくなるが、全員そのつもりでいるように」
「畏まりました!」
「おめでとうございます!!」
皆が口々に祝福してくれる中、真っ赤になってしまったサラの頭を撫で、俺はリアンと共に留守の間の様子を聞くべく執務室に移動する。大まかには特に何も無かったようで、溜まっていた仕事のうち、急ぎのものだけを片っ端から片付けていった。一段落した所で、サラと共に夕食を摂る。
「サラ、俺達の結婚についてだが」
俺が話題を振ると、サラは瞬時に耳まで赤くなった。
「お前は何時頃が良い?」
「え……?」
赤くなりながらも、目を瞬かせているサラに、俺は続ける。
「俺の気持ちは、まだ漸く昨日お前に伝わったばかりだ。俺のプロポーズは受け入れてもらえたが、まだお前は心の準備ができていないだろう。今更お前を手放してやるつもりなど更々無いが、お前が心を決めるまでくらいは待てるつもりだ」
今まで俺は、サラに雇い主としてしか見られていない事は自覚している。俺は徐々にサラに惹かれ、想いを自覚するようになったが、サラはいきなり俺に気持ちを告げられて困惑した筈だ。幸いプロポーズには頷いてくれたが、まだ大いに戸惑っている最中である事は容易に察せられた。
だからこそ、俺はサラがちゃんと想いを向けてくれるまで待とうと思ったのだが。
「あ、あの、私は何時でも良いです」
「何……?」
サラの返答は、俺の予想外だった。
「私は、セス様の事をお慕いしておりますから」
(!?)
サラの告白に、俺は目を丸くした。
「私は平民として育ちましたし、貴族令嬢としての教育も基本的な事しかできていませんでしたので、本当にセス様に相応しいのか、胸を張ってセス様の隣に立てるのかと、自信が無くて思い悩んでいましたが……、セス様が、私が良いと、私以外はお断りだと仰ってくださったので。私は自分の事には自信がありませんが、セス様の事は心から信頼しております。そのセス様が、私を選んでくださったのですから、セス様が望んでくださる限りは、全力でお傍に居たいと思います」
顔を赤らめてはにかみながら、はっきりと告げてくれたサラに、俺は目を見開いた。と同時に、今まで生きてきた人生の中で、感じた事の無い感情が、胸の底から湧き上がる。
(……可愛い。愛おしい。大切にしたい)
「……そうか。なら、全力で一生俺の傍に居ろ。何があっても離れるな」
「は、はい……!」
今度は頭から湯気が上がるのではないかと思う程、全身を真っ赤に染めて両手で顔を覆うサラを見つめながら、俺も負けないくらいにみっともない程、顔を緩ませている自覚はあった。