身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く
第一話 政略結婚の打診
照明が落とされた白く凹凸のある天井が、ゆらゆらと揺れている。
貴仁さんの手は情熱的に絡み、熱い息が体の揺れとともに漏れる。ひと筋の汗が彼の輪郭をなぞり、キラキラと光って落ちていった。
美しくて息を呑んだ。私は彼を受け止めることに精いっぱいで、社交界を賑わせる普段の彼からは想像できないその姿をただ見つめているだけだった。
「貴仁さん、あっ……」
冷たく孤高の存在と言われているこの人は、愛する女性にはこんなにも優しく触れるのか。すごいギャップだ。こんなことは知りたくなかった。
「声を我慢しないでくれ、花純」
低い響きの中にほんの少し隠された切ない声色にドキリとする。同時に、その繊細な感情は私に向けられたものではない思い知り、さらに声を押し殺した。
「花純……やっと手に入った」
貴仁さんを裏切っているくせに、勝手に悲しい気持ちになってはいけない。私が花純ではないと知ったら、彼はどんなに絶望するだろうか。それでも、貴仁さんには花純を諦めてもらわなければならない。そしてその代わりに空っぽの私を捧げる。
きっと今夜が、彼に優しく抱かれる最初で最後の夜になるだろう――。