身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く

私のことを大切にしてくれる家族たちは、当然そう言うと思っていた。でも、私はシーナ製紙を助けたい。両親にはここまで大切に育ててくれた恩を返したいし、花純も三橋さんを選ぶことに負い目も感じてほしくない。

 私は心の中を悟られないよう、その写真の虜になったように、できうる限りの麗しい視線を写真の彼へと向けた。

「ううん。私、ずっと柊さんのことが気になってたの」

このとき家族がどんな顔をしていたか、私は知らない。代わりに写真の吸い込まれそうな瞳をずっと見つめていた。

それにこの人のことが気になっていたというのは、まったくの嘘というわけではない。一度だけ会ったことがある。向こうは私を知らないし、なにも覚えていないと思うが、私には忘れられない出来事だった。
それは、この婚約話からさらに二か月前のこと――。
 
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