身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く
花純はベッドに座りうなだれた。私も隣に腰掛け、どうすればいいかわからず父を見上げる。父は眉をひそめ、「うーん」と好意的でない返事をする。今にも泣きだしそうになっている花純に代わり、私は理由を話した。
「お父さん。花純たち、忙しい時期を避けてずっと旅行を先延ばしにしていたの。本当は光汰さんの誕生日は八月でしょう? 前もって六月から計画していたけど、いろいろと会社の予定が入っちゃって流れてばかりで。やっと片付いてふたりが空いてる休日はここしかないって。もう予約もして、行く場所も張り切って花純が手配してて……」
「じゃあ、光汰くんにも相談してみるかい?」
「そんなの、光汰さんは出席するって言うに決まってるよ。責任感が強いし、シーナ製紙が大事だもの」
花純はそれだけ言って、今度はベッドに倒れて枕に頭を押し付けた。
父はそんな花純を見ながら再び、「うーん、でもなぁ」と言葉を濁す。
父の気持ちも痛いほどわかるし、正しいと思う。三橋さんに相談すれば彼も正しい判断をし、再び旅行の予定は流れるだろう。花純も頭ではわかっているはずだが、気持ちがついてこないようだ。