身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く

私でいいなら喜んで出席するのに、私は会社では役員秘書という肩書である。後継者色の強い花純たちより劣るため、代打の人選として印象が悪い。……ん? ちょっと待って?

「お父さん。いいこと思いついた。私が代わりに出るよ」

「え……? いや、だから今回は花純か光汰くんでなければ……」

「私が花純のふりをすればいいの」

花純も枕から顔を上げる。ポカンとするふたりをよそに、私は立ち上がり、ストレートの髪を手で持ち上げて膨らまし、花純に似せた妖精のような笑顔を作った。表情筋はかなり苦しいが、できているはず。

「おお、すごい。親でも見分けがつかないな」

しれっとひどいことを言う父にもう一度微笑みかけた。完璧だ。一番近く花純を見てきたのだから、真似をすることなんて朝飯前である。パーティーに出ている間の数時間のことならバレる心配もないだろう。それに私が花純だと言い張れば、マイナンバーカードの提示でも求められない限りどこにも証拠などないのだし。

「香波ちゃん……悪いよ、そんなの」

「大丈夫。相手が大企業だって言っても、たいして関わりもない企業じゃないの。お世話にもなっていないのに私たちが悪く思う必要ないって」
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