身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く
会場である高級ホテルに着くと、招待客であるどこかの社長や御曹司が頬を赤く染めて挨拶をしてくる。
それはもちろん父へ向けた言葉が中心なのだが、明らかにこちらをチラチラ見ていた。
私も終始、花純のような笑顔を意識し、時折発する言葉も柔らかく、優しく、相手が妖精と話したかのようにふわりとした心地になる言葉を選んだ。もちろん意識して顔を作らなければならないし、指先まで繊細でゆっくりとした所作を心掛け、花純ならなんて答えるか常に頭をフル回転させて喋らなければならず気の休まるときはなかった。
「すごいな……誰も香波だと気づかないものなんだな」
「ふふ、それは当たり前だよ。だってもともと私に興味があった人なんていないから。知らない人と比べようがないでしょ。だから今日の花純はちょっと変だな、くらいの違和感で済むのよ」
私は他意はなく、思ったことを口にしただけなのだが、父は「そんなことはないよ」と悲しそうな顔をした。
会場は司会が進行をし始め、柊和コーポレーションの社長をはじめとした関係者の挨拶が始まった。そばにいる招待客が、小声で話す声が私に聞こえてくる。