身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く

「見ろ。あの役員席にいる専務が、柊和コーポレーション御曹司の柊貴仁だ」

つい、私もその方向を見た。……あの人か。漆黒というイメージがピッタリの、髪も瞳も、スーツも黒々とした若い男性。彼だけとんでもなく華がある。というより、隣り合う役員ですら彼に圧倒されて委縮している印象を受けた。

「あの御曹司、とにかく頭が切れるんだ。俺も一度だけ一緒に仕事をしたが、ひとりの頭脳で精鋭部隊ができてるんじゃないかってくらい、ビジネスの戦闘力が高い。若いのにモノの話も、カネの話も、ヒトの話も極めている。誰と話させても何枚も上手なんだ。で、狙ったものを必ず手に入れて去っていく。あれは天才だよ」

「へえ、たいしたもんだ。それにしても男前だなぁ」

「大企業の令嬢から見合いの話がひっきりなしにくるって。それも、令嬢本人が結婚したいって駄々こねてさ。それはそうだよな、あの見た目じゃあ」

「だが本人はあれだ。冷たそうだし、見た目も怖いだろ。おまけに自分に敵う相手がいないから一匹狼らしい。本当、映画の主人公みたいな人だよ」

嫌でも聞こえてくる会話に、心の中で「ふーん」と相づちを打った。天才って本当にいるんだ。
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