身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く

立ってまっすぐ前を見ている柊専務は、たしかにその瞳に誰も映っていないんじゃないというほど孤高の存在感を醸し出している。ひとりで高みから見る景色はどんなものだろう。迷ったり。心細くなったりはしないのだろうか。

「お、喋るぞ」

御曹司という立場だからか、社長は自慢げに息子を指名して壇上へ上がるよう促した。本人はとくに嫌な顔も光栄だという顔もせず、流れるようにマイクの前に立ち、一時的に主役が彼に代わる。ビシッと立ってこちらを向かれると、本当に目を惹く。

「本日はご出席いただきまして誠にありがとうございます。柊貴仁と申します」

うわっ……。
なんだろう、マイクを通して彼の低音ボイスは胸の奥まで響き渡り、なんの感情も込められていないビジネスライクな口調なのに耳から脳に深く入ってくる。その後も挨拶の言葉が続くが、私は終始、柊貴仁という人の存在感に圧倒されていた。

立食になり出席者同士の交流が盛んになると、父は一度深呼吸をし、「さて」と私に仕切り直す。

「柊和コーポレーションの社長に挨拶に行くぞ」

「え? うん」
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