身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く
父は額やこめかみにやけに汗をかいており、見るからに緊張し始めた。ただ挨拶をするだけだ。父だって相手の会社の規模に関わらず、そんなのは慣れっこのはずなのに、重要取引先でもない企業にどうしてそんなに緊張するのだろう。
「お父さん、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。行こう」
大丈夫じゃなさそうだ。不思議。まるで柊和コーポレーションに弱みでも握られているような感じだ。
挨拶周りをしている柊社長を見つけ、父は私とともに近づく。父は私の前にいるが、気持ちとしては私のうしろに隠れている感じがする。こちらに気づいた柊社長は「ああ、ありがとうございます」と会釈をし向き直る。隣には先ほど私を釘付けにした、柊貴仁も一緒だった。社長は父と握手をし、「椎名さん。お世話になります。その節はどうも」と挨拶する。
その節って?
「ありがとうございます……。今日はお祝いで参りましたので。百周年おめでとうございます」
「おめでとうございます」
私も慌てて会釈をした。顔を上げるときは意識して、花純に似せた笑顔を作る。
「ありがとうございます。噂通り美しいお嬢さんですね。どうぞよろしくお願いします」