身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く
「ああ、ありがとう。香波。助かったよ」
エントランスを出て、やっと演技から解放された。まだ少し表情筋が麻痺している。私は頬を手で上げ下げする運動をし、肩も回す。ふと、来るときは嵌めていたはずの指輪が見当たらないことに気づいた。
「……あ。お父さん。私、手を洗った時に外した指輪を忘れてきたみたい。取って来てもいい?」
「そうか、わかった。ロビーで待っているよ」
再びホテルへ戻り、エレベーターで会場があった二十二階に上がると、すでに人が捌けた後だった。静かな中でひっそりとお手洗いへと移動し、パウダールームに放置されていた小さなダイヤのついたシルバーの指輪を回収する。これで本当に、任務完了。再びエレベーターへ戻り、地上階のボタンを押した。
……えっ。
それは閉まる直前の出来事だった。
あの柊貴仁が早歩きでやって来て、閉まるドアに手を添えて押し戻す。そして中へと入り、再び閉まるボタンを押した。嘘でしょう、このタイミングでかち合ってしまうなんて。
エントランスを出て、やっと演技から解放された。まだ少し表情筋が麻痺している。私は頬を手で上げ下げする運動をし、肩も回す。ふと、来るときは嵌めていたはずの指輪が見当たらないことに気づいた。
「……あ。お父さん。私、手を洗った時に外した指輪を忘れてきたみたい。取って来てもいい?」
「そうか、わかった。ロビーで待っているよ」
再びホテルへ戻り、エレベーターで会場があった二十二階に上がると、すでに人が捌けた後だった。静かな中でひっそりとお手洗いへと移動し、パウダールームに放置されていた小さなダイヤのついたシルバーの指輪を回収する。これで本当に、任務完了。再びエレベーターへ戻り、地上階のボタンを押した。
……えっ。
それは閉まる直前の出来事だった。
あの柊貴仁が早歩きでやって来て、閉まるドアに手を添えて押し戻す。そして中へと入り、再び閉まるボタンを押した。嘘でしょう、このタイミングでかち合ってしまうなんて。