身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く
父が洋食より和食派なため実はフランス料理店は行き慣れておらず、アンティーク調の歴史ある作りの店構えに背筋が伸びた。
時刻は夕方の六時。改めて顔を合わせるのだからお見合いのようなものを想像していたのに、最初からふたりきりでディナーだなんてほぼデートだ。なんだか結婚は決定事項とされている気がして、向こうのペースに飲まれ後戻りできない感覚に緊張する。
入り口で出迎えてくれたウェイターに案内され、磨かれたウォールナットの床を一歩ずつ歩く。窓が多く開放的な店内だが、私はその奥、明らかにVIP席だと思わしき個室へ通された。
白いクロスの張られた丸テーブルにひじ掛けのある椅子が対面にふたつ、そのひとつにはすでに貴仁さんが座っていた。
彼は私に気づくと顔を上げて「花純さん」とつぶやき、立ち上がる。
「……貴仁さん。こんばんわ」
深いダークグレーのスーツに今回はドッド柄のワインレッドのネクタイを絞めており、パーティーでのイメージよりも柔らかく感じる。それでも彼のスタイルや堂々とした佇まいに圧倒された。
うまくやらなければならないのに、なにを話したらいいのか急にわからなくなって個室の入り口で動けずにいた。