身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く
熱気すら感じていたダウンライトの室内が、一瞬でピリッとした空気に変わった。驚きのあまり喉がヒクリと音を鳴らす。ちゃんと話す予定だったのに、いざ聞かれると「それは」という焦りの言葉が先に出ていた。しかし、これ以上隠すことに意味などなく、覚悟を決める。
「……黙っていてすみません。……私は花純ではなく、双子の妹の香波です」
そこで彼の表情が、雷でも落ちたかのように変貌する。
「双子の妹だと?」
「は、はい……」
「やはりな。話が噛み合わずおかしいと思っていた。で、俺を騙してなにがしたい?
ふざけているのか? 」
口調は淡々としているが、声はひどく低かった。それは雷の唸りのようで、次の瞬間には稲妻が落ちて怒鳴り声になるのではと恐ろしくて震えが止まらない。
「わ、私が……貴仁さんに憧れていたので、どうしてもお会いしたくて……」
「俺はお前に用などない。欲しいのは椎名花純だ」
掛けてもらったブランケットからは甘さの余韻を感じるのに、相手が花純ではないとわかったらこんなにも冷たく変わってしまうのだ。ここからはもう挽回は不可能なのではという絶望とともに、外見が似ていても私には決定的に魅力が欠如しているのだと思い知る。花純の代わりになれるなど思い上がりだった。