身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く
「……香波」
ふと、泣きじゃくる私の名前を貴仁さんが呼んだ。隠しながら顔を上げると、花純とは似つかぬ今の私の顔を覗き込んでいた。
「貴仁さん……?」
気のせいだろうか、彼の遠く冷たいはずの目は、少しだけ光が灯っていた。クシャクシャの私と目が合うとふと反らし、そしてまた戻してじっと見つめる。
「姉の身代わりになると言ったな」
「……え?」
「俺が今夜のように加減して抱くのは好いた女だけだ。香波、次にお前を抱くときは、なにも気遣ってはやらない」
……次って?
「家へ送る。椎名花純への求婚は取り下げると伝えろ」
貴仁さんはカフスを留め、背もたれに掛けていたジャケットに袖を通した。帰る準備を始めていると気づいた私も慌てて着てきた服を身につける。
私を家の前まで送り届けた彼は「責任をとって貰うからな、香波」と言い残して車を出し、すぐに見えなくなった。