身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く

父は買収の件をすっかり割り切った顔をしているが、私はまだ凹んでいる。
花純の代わりに抱かれたことや、好きになりかけていた貴仁さんに心抉れる言葉をかけられたことは、私も一夜明けて諦めの境地にいるが、やはりシーナ製紙を救えなかったのは心残りだ。

電話が入った父が離席した後も、私はリビングでしばらく放心していた。
まだ体の奥が熱を持っている気がする。とても昨日の出来事を消し去ることはできそうにない。初体験をあんなに甘く演出されたせいで好きになりかけてしまったが、あれらすべて花純に向けたものだったんだから、私もはやく割り切らなければ。こんな不毛な気持ちを持っていたって意味がない。体の熱が冷める頃には、恋も消えていきますように。

「か、香波! 香波!」

「なに?」

仕事の電話を受けていたはずの父が騒ぎながら戻ってくると、母や花純も「どうしたの」と部屋から出てきた。
全員が私のいるリビングに集まってくると、父が「香波、昨夜いったいどんな話をしたんだ?」と私に尋ねた。

< 49 / 110 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop