身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く
花純はティースプーンを置き、リビング続きになっているテラスの椅子から立ち上がった。私も同じく立ち上がり、こんなに慌てているのはただごとではないと思いリビングへ戻って話そうと促す。テラスの光が差し込むリビングのくの字のソファに全員が座る。父はテーブルに、見合い写真の台紙のような立派な白の冊子を置いた。
冊子が開かれるとまさに見合い写真と言える、男性がひとりで写った写真が真ん中に嵌め込まれている。艶のある黒髪を耳に流し、鋭くも色気のある端整な顔立ち。カメラに向けられたまっすぐな視線は、狙った者を逃さないという意志を感じるものだった。
父以外の全員が息を呑んだのは、その写真の男性があの有名な柊貴仁だったことと、彼の写真がこの世のものとは思えないほどの美しさだったから。
「なあに? この方、柊和コーポレーションの息子さんでしょう? とても優秀だと有名な……」
柊貴仁、三十歳。商社大手の柊和コーポレーションの御曹司で専務である。私たちも社長令嬢ではあるが、シーナ製紙とは比べ物にならない規模の大企業の大物だ。
父は驚く私たちを前に、肩をすぼめて話を続ける。