身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く
「香波ちゃん、すごい! 柊専務の心を射止めていたのは私じゃなくて香波ちゃんだったんだね! やっぱり、私は接点がないからおかしいと思ってたの。香波ちゃんが両想いでよかった」
花純に〝両想い〟と言われたがピンとこず、「いやいやいや……」としか言葉が出なかった。つい昨夜まで完全に花純が好きな様子で、私は玉砕していたのだけど。どうして急に? それに、私と香波を見間違えていたとかは絶対ないはず。服装も髪型もかなり違うし、そもそも全然違うって本人にも言われた。『代わりにもならない、思い上がるな』って。貴仁さん、いったいなにを企んでいるんだろう。
「どうする? 香波。今回は、この結婚話は資金提供の条件にはなっていない。香波の自由でいい」
そんなこと言われても……。
もしかして、やはり私を花純の代わりに妻にするつもりなのだろうか。別れ際に貴仁さんに言われた『責任をとって貰うからな、香波』という言葉を思い出す。資金提供の条件になっていないと言われても、この流れは拒否という選択肢などない気がした。
それに、実際に貴仁さんに結婚を申し込まれると、体に残る熱が再び甦ってくる。あの夜が最後ではなく、本当にまた彼に抱かれるのだろうか。
「……うん。結婚したい」
手加減はしないと言っていた。甘く溶かされる抱き方はもうしてくれないだろうけど、私は初めてを捧げた彼との夜が忘れられそうにない。