身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く
二時間で顔合わせはお開きとなり、一度戻っていた運転手が再び料亭へ迎えに来た。リムジンの後部座席には、挨拶をするために父が呼び寄せた花純が乗っており、私はギョッとする。
花純は嬉しそうに車から降り、運転手に手を取られながらヒールを地面に着ける。
「お世話になっております。姉の花純でございます。これからもどうぞよろしくお願いします」
薄ピンクのレーススカートに、緩く編み込んだ柔らかなヘアスタイル。私の結婚が決まったことが嬉しいのか、花が咲いたような笑顔を向ける。これにご両親も「花純さん、お久しぶりです」とワントーン高い声で挨拶を返した。
本物の花純が来ると、どんなに真似をしても私とは違うと感じる。華やかさや、周囲を和ませる雰囲気、癒される表情、どれも私のはまがい物だ。思い上がるなと言われて当然だったのかもしれない。
ふと隣に立つ貴仁さんを見上げた。彼は本当は花純のことが好きなのだから気まずいだろう。どんな顔をしているのか単純な好奇心だったのに、目にした彼の横顔は切なく、儚げに、花純の姿を目に焼き付けようと透き通った瞳で見つめていた。
その顔を目の当たりにした私の胸はちくりと痛み、彼と出会ってからこれまでで一番、寂しい気持ちになった。