身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く
あっさりと籍を入れ、その二週間後には貴仁さんのレジデンスに移ることになった。
その間、ふたりで出掛けたり、電話をすることもなく、事務連絡のみが送られてくる。こんなに冷めた関係の夫婦などいるのだろうか。
聞きたいことはたくさんあったが、私はどんな連絡にも「わかりました」以外の言葉を返すことはできなかった。
家族に見送られながら、迎えに来た貴仁さんとともにレジデンスへ向かう。車内であまりに沈黙が続くため、か細い声で「これからよろしくお願いします」とだけ告げたのだが、なんと無視をされた。
形式上は結婚を申し込んできたのは貴仁さんなのに、あんまりでは?とふて腐れた気持ちになり、私はもう口を開かなかった。
「あるものは自由に使っていい。ベッドはひとつだが広さは問題ない。寝相が悪ければまた考える」
「……は、はい。ありがとうございます」
キャリーバッグを持った私をリビングに置き去りにして着替えに行ってしまったため、白のワイシャツに黒のパンツで戻った彼を「あの」と呼び止めた。
「荷物は……どこに置けばいいですか」
「好きなところへ置け。俺の書斎以外ならどこへ置いても構わない。寝室なら奥だ」