身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く

食事を取ると彼は準備をして柊和コーポレーションへと出掛けていき、見送ってから私も準備を始める。
ある程度してあったメイクは花純寄りのピンク系だったため、私が普段使うオレンジ系に直す。描いてある垂れ眉に少し傾斜をつけ、眉頭を描き加えてキリッとした印象にした。ネグリジェを脱ぎ、クリーム色のタイトスカートとジャケットのセットアップを着る。わざと膨らませていた髪も、ヘアーアイロンで念入りにまっすぐにした。

クローゼットの姿見で確認すると、やはりこの方がしっくりくる。ただし、貴仁さんの好みからは大きく外れているだろう。

その日は言われた通り外で食事を済ませてから帰り、午後八時を回った。カフェでいろいろと考えごとをしていて遅くなったと思ったが、部屋の電気は点いておらず「ただいま」とつぶやいても返事はない。
貴仁さんはまだ帰っていないらしい。このままシャワーを浴びてネグリジェでひとり眠るのかと想像すると、虚しくて花純のふりなどもうやめてしまおうかとすら思う。

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