身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く
第六話 溺愛開始
『お前の料理が口に合うと言ったか?』
仕事を終えて家へ戻っても、貴仁さんの言葉が頭から離れなかった。彼は完全に私を拒否していた。
バカだなぁ、私。花純のふりをしなくなってから彼が私に甘くなった気がして、花純よりも私が好みだって言われているようで舞い上がってしまった。そんなことは今までなかったから、うれしくて。
そんな私を受け入れる気はないという意思表示をされたのだ。上げて落とされた気分で、けっこうしんどい。私が勝手に落ちただけだけれど。
ジャケットを脱いでソファへ掛け、沈むように腰を落とした。テーブルに置いたスマホが音を立てて震え、重い腕を伸ばして画面を見る。
珍しく、貴仁さんからの着信だった。なんだろう。怖くて出られない。
ご飯を食べて帰るとかだろうか。いやそもそも夕飯なんていらないと今朝釘を刺されたのだからそんな連絡はしないはず。じゃあなに? もしかして、やっぱり私との結婚は無理だった、とかだったり……。
まだ結婚してからひと月ほどしか経っていないけど、離婚を切り出されてもおかしくない。彼の立場では、まだ各方面に紹介をされず式も挙げていない今のタイミングで別れた方がなにかと楽だろう。