身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く
彼は衣擦れの音を立ててネクタイをほどき、ソファの背にかける。なんのうしろめたさもない、ただ私を愛でるという彼を前に今まで感じたことのない恥ずかしさに襲われた。花純の代わりだったのに、捕食対象は完全に私になったのだ。
「やっ、ダメ、待ってくださいっ」
うつ伏せになって背を縮めた。熱い顔を両手で覆い、彼の視線から逃げる。
「無理です、恥ずかしい」
「なにが恥ずかしい? 何度も抱いてるだろ」
「だって、貴仁さん今までと違いすぎて……オオカミみたいで」
そう言った途端彼は静かになった。どうしたのだろうか。首を持ち上げ、顔を覆っている指を恐る恐るずらして隙間から様子を伺う。すると彼は本当に獣のように発情した顔をしており、私はたまらず「きゃー!」と叫んでソファの上から逃げ出した。
「香波っ」
伸ばされた手をすり抜け、寝室へ駆け込む。しまった、寝室では状況は悪化してしまう。彼があんなに花純に執着し一途に苦しんでいた姿を思い出し、その相手は花純ではなく私だったのだと意識すると、もう胸がいっぱいすぎて受け止められない。