身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く

「無理です、今日は無理ですから。いきなり私を好きだと言われたって、心の準備ができていません」

寝室の扉の隙間から顔を出し、廊下へ追いかけてきた貴仁さんへ首を振る。

「心の準備とはなんだ」

「だって私、さっきまで離婚する覚悟でいたのに……」

「離婚!?」

貴仁さんは焦った顔でこちらへ突進してきた。このままではドアを壊されそうな勢いだったため、私は「するつもりはないですけど!」と先にフォローを入れる。そして彼に、正直に今の気持ちを告げることにした。

「私、今まで冷たくされたこと、ショックだったんですから。そんなにすぐにイチャイチャする気になれません。私がその気になるまでちょっとくらい待ってください」

彼は切なげな顔をしたが、〝その気になるまで〟というキーワードに再び熱い目をする。

「そうだな、すまなかった。これからの行動で挽回していく。その気になったら教えてくれ。……俺の方はいつでもその気だ」

また妙な雰囲気になり、一度ドアを閉めた。貴仁さんがストレートすぎて変になりそうだ。あんな彼に抱かれたらきっと正気ではいられない。

「今夜はなにもしないから、あま怯りえないでくれ。しばらくしたら食事へ行こう」

「……はい」

彼はドアの向こうでそれだけ言うと、足音とともに離れていった。しばらくひとりの時間を与えられた私はベッドに横になり、まだ興奮の冷めない自分の体を抱きしめた。
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