身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く
花純をタクシー乗り場まで送る。過保護かもしれないが、花純と会うときは彼女の送迎がないと心配で仕方がない。最近の花純はひとりのときは電車に乗ったりしているらしいが、私は二度と、目の前で姉が誘拐されるところを見たくはないのだ。
「香波ちゃんはタクシーで帰らないの? 貴仁さんがお迎えに来てくれる?」
「うん。来てもらうから大丈夫」
休日の貴仁さんを私の送迎などで呼び出すつもりは毛頭ないが、花純が心配そうな顔を向けるためそう告げた。手を振って別れ、私は花純がタクシーに乗って見えなくなるまで、隠れて見守っていた。
見送りが終わると踵を返し、来た道を引き返す。アフタヌーンティーをしたホテルまで戻り、向かいのガラス張りのカフェを観察した。よかった、もういなくなっている。私たちが窓際のソファ席でアフタヌーンティーをしている間、ここにグレーのジャケットを着た若い男性が座り、こちらをずっと見ていたのだ。きっと花純を見ていたに違いない。女性ふたりでは舐められて話しかけてくるかと思ったが、私が警戒した顔で離れなかったからか事なきを得た。タクシーに乗せたしさすがに諦めただろう。油断するとこんな具合で、花純は通りすがりの男性に目をつけられてしまう。