身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く
一緒にタクシーで帰ってもよかったが、ここからレジデンスまではひと駅ほどの距離しかなく天気もよいため歩くことにした。自分らしい白のニットと黒のストレッチパンツに、お気に入りのゴールドのパンプスで、整備されたレンガの道を進む。
高級住宅地に入ると人通りも少なくなり、電車の音や喧騒も聞こえなくなる。
「ん?」
背後から、自分の足音のほかにもうひとつ足音が聞こえる気がして、歩みを止めて振り返る。ジャケットを着た男性の影をかすかに捉えたが、すぐに手前の十字の道を右に曲がって消えていった。曲がり方が不自然な感じがしたが、気にすることではないと思い再び歩き出す。
今度はハンドバッグの中でスマホが震えた。手に取り画面を確認してみると、貴仁さんからメッセージが来ていた。
『夕食はどうする?』
これは……。私の希望を聞く形で送ってきているが、最近ずっと私の料理が食べたいと言っていたし、遠回しに作ってほしいというリクエストだろうか。すんなりと作ってあげるのはまだモヤッとするけど、子どもみたいにこうして何度もねだられてはかわいく感じてしまう。