身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く
もう少し先へ行ってレジデンスへ近づくと、オーガニック食材を扱うスーパーがある。そこで調達して、今日は用意してあげようかな。つくづく、私ってお願いに弱いよなあと思う。
『スーパーへ寄って帰ります』
含ませた言葉で返事をし、いたずらを終えた気分で足取りは軽くなる。スーパーの品揃えを思い出しながら、なにを作ろうかと考えた。白いスクエアな三階建ての一軒家を通り過ぎ、あと二百メートルほどでスーパーへ到着する。そのときふと、またうしろを振り返った。
「あっ」
やっぱり見間違いではなかった。私は前に向き直り、少し早足で歩く。さっきからうしろにいる人、カフェで花純を見ていた男の人だ。この住宅地に住んでいるのだろうか。曲がっていったはずなのにどこでまた現れたのだろう。今度はしっかりと目が合ったためか、向こうも足音を隠さない。
普通の人に見えたけど、もしかして私を尾行している? そこまで考え、ハッとした。この人たぶん、私と花純を間違えているんじゃないだろうか。今日の花純は白いカーディガンで、私も白のニット。ソファに座って足もとは隠れていたから、遠目では服装では見分けがつかなかっただろう。