身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く
パンプスがタンタンと音を立て、男性の背中との距離が縮まっていく。細い路地には人の気配はない。これでも足は速い方で、私は手を伸ばすと難なくジャケットの裾を掴んだ。
「捕まえた!」
グッと力を入れ、振り向かせる。向こうはバランスを崩したが転びはしなかったが、下を向いて顔を合わせまいと抵抗した。背が高く、少し癖のついた黒髪で、近くで見ると気弱そうな雰囲気がある。年は三十代くらいだろうか。しばらくはさて観念したのか直立して私と向き合った彼は、汗だくで真っ赤な顔していた。
「あなた、カフェからずっと尾行してましたよね? どういうつもりですか?」
「……すみません……」
すぐに掠れた声の謝罪があり拍子抜けだった。反省をしているように見えるし、もしかしたら出来心だったのかもしれない。しかしそれならなおのこと、もうやめてもらわなければ。