仮面下の溺愛ケモノ
さ「ひぃー。今日はなんかバタバタだなぁ」
いつもは受付に座って来た人に挨拶とか新規の人に説明とかぐらいなのに、タオルを1式替えたりとかでバタバタ雑務をこなしている。
掃除用具から何から新しくしたらしくて、古い物をカゴに詰めて台車でゴロゴロ運んでいたら多分聞いた事あるであろう声が複数聞こえてきて、そっと受付を覗き込んでみた。
したらそこに居たのは私の高校で知らない人は居ないあの目立つ2年生達だった。
私の事なんて絶対知らないだろうけど、何かの拍子でバレたら嫌だから慌ててマスクを付けて、誰が忘れていったか分からない古びたメガネを掛けた。
「新規さんですね。こちらに記入お願いします。皆さんご入会希望ですか?」
「んーとりあえず皆は今日は体験!俺は入会するよ~」
「体験も何か書くの?」
「そうですね、一応御記入お願いしてます」
「だってさーほい」
ゴロゴロ台車を押しながらそっと2年生の後ろを通り過ぎる。
赤髪の人はどうやら入会するらしいけど、他のメンバーは確かにボクシングとかしそうにない感じ
ガッシャン
さ「ふー。ひと段落」
処分するものを全て外にある大きなゴミ箱に投げ捨てて、台車を元の位置に戻して軽く飲み物を飲んで受付に戻ろうとスタッフ専用の部屋に戻ろうとしたら声を掛けられた。
いつも通り笑顔で振り返って一瞬で私の表情は固まった。
居たのは2年の人で、中でも冷血と言われてる1番顔面偏差値が高い人だったから。
さ「…はっ。ど、どうされましたか?」
「…シャワー室ってどこ」
さ「シャワー室はそこの角を曲がられて突き当たりにありますよ。タオルは全て自由に使って頂いて大丈夫ですので」
「………」
さ「………っ」
お礼なし!!!!!
頭も下げず無言で私が教えたシャワー室に向かっていった。
少しムカムカしつつ飲み物を飲んで受付に戻るとあの人達が書いたであろう用紙が置かれていて、何気なく目通す。
人気があるのは知っているけど名前までは知らなかった。
…秋だ。
日野 千秋。
さっきのお礼なし2年生の名前を初めて知った私は、自分の名前と少しだけ親近感が沸いた。