銀色ネコの憂鬱
———ペラッ

そこには蓮司が紙を持って立っていた。
「これ、必要なんじゃないの?」
「それ…契約書…?」
蓮司の署名と捺印もされている。
「必要でしょ?」
「え、でも昨日は無理って…」
菫は今日、改めて蓮司を説得するつもりでここに来た。
「気が変わった。俺、スミレちゃんと仕事したい。」
「契約の内容が頭に入らないって…」
「ちゃんと読んだよ。商品ジャンル毎の契約で、他社から同一ジャンルの話があったら要相談。既存作品の場合は使用料、描き下ろしの場合は制作費に使用料含む、あとは商品の生産数によってロイヤリティが規定のパーセンテージで支払われる、今回の希望は手帳とノートとレターセットとメモ帳と付箋とファイル。販促物への使用は都度相談、でしょ?制作費も使用料もロイヤリティも違約金もこれでいい。」
「え…?」
「ちなみに俺カメラもパソコンも自分でできるから、デカい作品は写真撮って補正してデータ渡すよ。合わせる文字(フォント)は指定させてほしいけど、レイアウトは作品イメージが変わらなければ好きにやってもらって大丈夫。イメージわかんなければフォーマットもらって最初は俺がやってもいいけど、デザイナーのやりたいようにやった方がメーカー色が出るんじゃない?スミレちゃんがくれた商品のカタログ、結構センス良い感じだし。」
「は…?」
蓮司がペラペラと仕事の話をするので菫はわけがわからない。
「昨日は“そういう話苦手”って…」
「スミレちゃんて、本当(ほんと)素直で可愛いよね。」
蓮司はいたずらっぽく笑った。
(嘘だったってこと…?)
「はい」
蓮司が菫に契約書を渡した。
なんにせよ、無事に一澤 蓮司と契約ができるのは喜ばしい。
「…ありがとうございま…え…?」
< 13 / 101 >

この作品をシェア

pagetop