銀色ネコの憂鬱
「辛かったら聞かないですが…私と話して絵が描けるようになったというより、サクラのことを他人(ひと)に話せたから気持ちが軽くなったんじゃないかなぁと思うんですよね。」
「……いいよ。」
「サクラはどんな色の猫だったんですか?」
「…銀色の長毛(ちょうもう)の猫。」
(銀色で長毛…?)
「一澤さんと同じ…?」
「うん、そう。お揃い。」
菫は思い出すように「ふふ…」と笑った。
「だから自画像が猫だったんですね。」
「うん…」
蓮司の声に涙が混じっているのがわかる。
「やめますか?」
蓮司は首を横に振った。
「もっと話したい」
「…えっと、じゃあ…」
それから1時間30分、菫は蓮司と話しながらアトリエで過ごした。
「じゃあ、今日はこのへんで…。」
「うん。本当はもう少しいて欲しいけど。」
蓮司の言葉を菫は気に留めず、仕事の会話を続ける。
「ご用意いただいたデータのアドレスはうちのデザイナーに共有しました。次回はデザイナーも連れて来ます。」
「了解。」
契約を交わした蓮司は拍子抜けするほど協力的だ。

(私、本当にアトリエにいた意味あったのかな?)
帰り道、菫は考えていた。
(でもサクラの話をしてるときの一澤さんはちょっとかわいいから、まぁいいか。)
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